WILLSON EUPHONIUM TA2900SS

 スイスのメーカー、ウィルソンのTA2900SS。今や希少なサテンシルバーモデルである。
ボア:16.0mm / 第4ピストン以降17.0mm
ベル:290mm
ピストン:4ピストン(第4ピストンサイド式)
コンペンセイティング・システム
ウォーターポット装備
サテンシルバー仕上げ

*スペックは、(株)グローバルのカタログを參照

 【外觀、仕樣】

 ブライアン・ボーマン氏が開發に加はった、ウィルソンTA2900のサテンシルバーモデル。カタログスペックでは、ボアサイズが、他社のユーフォニアムに比べてかなり大きい。これは、通常のボアサイズ(抜き差し管の内管の内径)ではなく、どうもピストン本體に空いてゐる穴の内径のやうである。數値が大き過ぎるのは、この爲ではないかと思ふ。抜き差し管の内管の内径は、第1〜3ヴァルヴが 14.90mm(公差 +0.50 -0.00)、第4ヴァルヴが 16.90mm(公差 +0.00 -0.50)であり、他社より0.20〜0.40mmほど大きい、といふ程度であった。實際に測ってみるとかういふことまで判るから、面白い(笑)。

 ワタシが吹いてゐたモデルは、メインテューニングスライドトリガー、右手小指用のリングを本體に装着(いづれも新大久保のDACに依頼)したものであった。TA2900のピストンシリンダーの位置は、ベルから大分離れてゐるため、演奏時に、右手人差し指の付け根が段々ベル側に寄って行き易い。結果、斜めにピストンを押すやうになり、フィンガリングに支障をきたし、ピストンの動きが鈍くなり易い。そこで、小指の引っかけを作ることで、右手のポジションを安定させたといふ譯なのである。大きめのリングを採用したので、適度な遊びがあり、かつ右手のポジションを安定させられるので、大變重寶した。左手の方は、第4ピストンが操作し易いやうに、上手くレイアウトされてゐるので、全く問題なかった(ベッソンは、ちと操作しづらい)。

 【音色、音程】

 通常のブライトシルバーモデルよりも正確な音の當て方が必要とされた。これが個體差なのか、サテンシルバーの影響なのかは、よく判らない。一音一音、正確に當てて、且つエアーを確實に送り込まなくては、初めのうちはテューニングのB♭すら出なかった。その音の出し方に慣れると、太く、豊かな音色が、バンドを突き抜けて響いて來る。これには、自分でも驚いた。タンギングとエアーを妨げるやうな余分な力みを取り拂ふことが、攻略の第一歩かも知れない。

 音程は、テューニングのすぐ下のAが異樣に低く、屡々第4ヴァルヴで演奏する羽目になった。他は、それほど氣にならなかった(まぁ、氣にすればキリがないのだが(笑))。後から取り付けたトリガーは、主に、ハーモニーの中で音程を調整するのに用ゐてゐた。

 【こぼれ話】

1. TA2900が出る前には、2728といふモデルがあり、それはベッソンにそっくりの管の配置であったが、TA2900では、持ち易さや、スムーズな振動の實現のために、デザインが一新されてゐる。また現在作られてゐるTA2900は、發賣當初のモデルからマイナーチェンジしたモデルで、支柱の形、マウスパイプの形状が異なってゐる。ボーマンさんが使用してゐるのは、當初のモデルのやうである。現行モデルをお持ちの方は、下の畫像をクリックして比較して頂きたい。


バンドジャーナル 1985年2月號表紙
(音楽之友社 昭和62年2月1日発行)

2. TA2900の出現は、他のメーカーに大きな刺戟を與へた。モダンな音色もさうであるが、サテンシルバーやインナーベルゴールドの採用、ウォーターポットの装着などは、他社が遠い昔に捨て去ったアイデアだった(さう、これはウィルソンの發明ではないのだ!)。これを現代に蘇らせたことは、特筆に價すると思ふ。

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平成15年9月11日作成


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「ユーフォニアム講座」
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Hidekazu Okayama