第三章  言葉の力
 『ドイツ國民に告ぐ』第四講を中心に

 フィヒテは、『ドイツ國民に告ぐ』において、ドイツ人本來の姿について語つて行く。そして、ドイツ人が本來の言語を間斷なく使ひ續けてゐるといふ事が、他の歐州民族に優れてゐる所以であり、もし、このドイツ語を失ふやうな事になつたならば、ドイツ人の持つ優れたる特性も、ドイツといふ國も、全て失はれてしまふのだと語つたのである。それではフィヒテは、民族と言語とがどのやうな關はりにあると考へてゐたのであらうか。そして、ドイツ人がドイツ語を失つた時最早ドイツ人ではなくなり、ドイツといふ國も無くなつてしまふとはどういふ事なのか、第四講を中心に考へてみたいと思ふ。