Besson BE968 Sovereign と同型のユーフォニアム

 

 ここで採上げるのは、現在、Boosey & Hawkes 社から Besson ブランドで製造販賣されてゐる BE968 と同型のユーフォニアムです。BE968 は、世界のユーフォニアムの基本モデルとなった名器です。從って、歴史も古く、様々なマイナーチェンジを經て、今日に至ってゐるのです。

BESSON BE968-2 Sovereign

 

 かつて Boosey & Hawkes と Besson は、別會社であり、Boosey & Hawkes (さらに前身は、 Boosey & Co. )はイギリスの革新的な金管樂器、 Besson は傳統的なベルギー・フランス系の金管樂器、といふ風に全く違ふタイプの樂器を製造販賣してゐました。やがて、Besson は、B&H の傘下に入り、B&H を大本として樂器を製造し、それぞれのブランドで樂器を販賣してゐました。その當時の樂器が手元にあります。

左:Boosey & Hawkes Imperial (1971) 右:BESSON New Standard (1976)

各画像をクリックすると拡大します。

 デジカメ畫像を加工したので、若干皺が寄ってますが、以下の點が判明すると思ひます(まるで間違ひ探しみたい(笑))

・マウスパイプの形状と、レシーバの高さ。
・4番ピストンの位置。それに伴ふ、4番ピストンに繋がる各スライド管の位置。
・ベルの大きさ(寫眞では判りづらい)。 B&H 277mm, Besson 284mm

 

 この違ひの原因は色々に考へられます。4番ピストンの位置については、おそらく各々のブランドや製造年代の設計による違ひではなく、職人の組立て方の違ひによるところが大きいのではないかと思はれます。オークションなどに出品されるこの時代のB&H の畫像と比較しますと、どうもこの手元にある樂器の場合、たまたまこの位置に着けられてしまったといふ感じが大きいからです。しかし、マウスパイプの形状は、前述の資料などを照らし合せても、畫像故に判然とはしませんが、どうも年代毎の設計に拠ってゐるやうです。手元のB&Hのマウスパイプの形状は、現行の Besson BE968GS(フローティングマウスパイプ)の形に極めて近いことが、B&H株式会社のサービスセンターにて確認できました。ベルの大きさの違ひについては、畫像ではなんとも判斷のしようがありませんが、カタログスペックに於いては、時期的に284mmの場合と、279mmの場合とがあるやうです。手元のB&Hのベルは、實際には277mmなのですが、279mm設計で、結果的に-2.00mmの公差が生じたとも考へられます。

 このやうな個々の樂器に關する疑問を解決するには、比較研究が最適ではないだらうかといふ聲が、當資料館に集ふ皆さんから上がり、平成13年9月22日、ブージーアンドホークス株式会社樣のご協力を頂いて、「Old Besson, Boosey & Hawkes Euphonium Off!」を開催しました。お陰樣でプロからアマテュアまで多くの方々にご參加頂き、澤山の樂器を拜見出來ました。後に困らないやうにとデジタルカメラを用いて、同じ位置からの撮影をしましたが、ファインダー越しに見る各樂器が、一台一台違って見えるといふことに驚きました。その畫像については、こちらのページをご覧になって下さい。マウスパイプのシャンクの角度、各管のバランス、ベルの拡がりなど、一台一台異なってゐることがお判り頂けるのではないかと思ひます。

 また、手元の B&H Imperial と Besson New Standard は、ベルの成形が現在の2枚取りではなく、銀杏の葉型の板をハンマーで叩いてベル状に拡げて行き、間を三角の板で繼ぐといふ、1枚取りベルに近い手間の掛るやり方がなされてゐます。參加された別の方の Besson New Standard (當方の New Standard よりも、製造番号が20000番ほど新しいモデルです)で確認した所、そのやうな痕が見られませんでしたので、これは時代によって異なる成形方法だと考へられます。ちなみに先の方のベルには、縱に眞直ぐの接痕がありました。おそらくは、製造番號が5*****台前半の B&H や Besson には、この三角の板を繼いだ痕が見られることと思ひます。


 ブランドが違へば、當然刻印も違ひます。また同じブランドでも、年代が違ふと刻印も變化します。まず、手元の2台を比較してみます。

Boosey & Hawkes Imperial

 

Besson New Standard

 Besson には、「New Standard」 の刻印があるタイプと、ないタイプが存在します。The Euphonium & Baritone Homepage といふホームページを開設してゐる、イギリスのユーフォニアム奏者、Charley Brighton 氏に尋ねたところ、本國イギリスから海外(特にアメリカ)へと輸出した New Standard の多くは、New Standard といふ文字のないデザインのロゴが刻印されたのださうです。 下の畫像は、New Standard の文字があるタイプのロゴを施したタイプで、拡大して見ると、兩者のデザインが随分違ってゐるといふことがお判りになるかと思います。

Besson New Standard

 また、日本に輸入されたものには、さらに2種類がありました。一つは全音が輸入してゐた B&H 767 Imperial、もう一つはプリマ楽器が輸入してゐた Besson 301 Imperialです。全音の B&H は機種番號に變更なく、イギリス本國そのままのモデルを販賣してゐました(トランペットに關しては、ZENON のロゴがあったらしい)が、プリマ楽器の Besson の方はベルの刻印を變更して販賣してゐたやうです。今のところ、海外で、Besson のこのタイプの刻印は見たことがありません。またこのBesson は、あの獨特の形だったピストンキャップ、レバーキャップ、ボトムキャップではなく、 B&H と同一になってゐるやうです。 プリマ楽器が輸入してゐた通常のタイプは、下の畫像のモデルになります(ユーフォニアム奏者の深石宗太郎さんが以前使ってゐたのが、このタイプです)。ベルは、通常の2枚取り成形のやうです。

 ユーフォニアム奏者の山岡潤さんの樂器を見せて頂いた時、ベルはプリマで販賣してゐたロゴで、キャップ類は New Standard と同じで、驚かされました。山岡さんによれば、國内で購入されたとの事でしたので、輸入されてきた年代によって若干違ふのかも知れません。

Besson 301SP

 

 參考までに、以前持ってゐた、Besson(刻印は1976年のベッソンと同じ)をご紹介します。シリアル番號等を控えてゐませんでしたが、マウスパイプは最初から中細のレシーバーでしたので、恐らく1974年以前のモデルと思はれます(製造番號は5*****)

 New Standard ですが、サテンシルバーではなく、ブライトシルバーでした。ブライトシルバーの New Standard もあるやうですが、この樂器に關しては、あまりに明るいメッキでしたので、後からかけ直した物と思はれます。なお、ピストンキャップは、ヤマハのものに付け替へられておりました(撮影時にはウィルソンのキャップを着けてゐます)。ピストンシリンダーのキャップは、台形ピストンキャップのものと同じ仕樣でした。今となっては細かいスペックは判りませんが、ベルの取り方も先に説明した舊式(銀杏のような板をベル状に拡げて行き、二箇所の隙間を繼ぎ足して仕上げる)ですし、チューニング管も短く、レシーバーの内径を除いて、現在手元にある Besson と、ほぼ同じと思はれます。

 



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Hidekazu Okayama